オールト雲前線基地情報部

Beyond the Oort Croud

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勇者の海 空母瑞鶴の生涯

      2016/04/14

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概要

神戸で瑞鶴が誕生してから、珊瑚海海戦で双方に多大な被害を被るまでの戦記になります。

真珠湾、南方攻略、インド洋、珊瑚海と、主に4つの作戦が出てきますが、最後の珊瑚海海戦は初の空母同士の戦闘であり、双方それなりの被害を出した海戦だけあって、空母同士の戦闘の特殊性、判断の難しさ、上層部と現場の温度差が、乗員への感情移入とともに深く伝わってくるので必見です。

 

 

以下、読んでいて特に気になった点を幾つかピックアップしていきますね。

 

空母運用の難しさ

交戦距離が長い

空母は艦載機を攻撃力とする都合上、その攻撃距離は従来艦艇と比較してとんでもない距離になります。作中の珊瑚海海戦でも

「敵空母ノ位置味方ヨリノ方位二○度二三五浬、針路一七○度速力一七節」

引用:森史郎「勇者の海 空母瑞鶴の生涯」651ページ

とあり、二三五浬=235海里=435.22 キロメートルが交戦距離です。当然母艦からは相手を見ることができません。さらに攻撃隊が行って帰ってくるだけでも数時間かかり、その間積極的な無線通信を行うことはないので、母艦から攻撃隊の情報が断続的にしかわかりません。砲撃で戦闘を行う艦艇の交戦距離は長くても20~30km程度なのでその尋常じゃない距離がわかりますね。
作中でも攻撃の現状がわからず乗組員が焦れる様子や、対空射撃から逃れながらの戦果確認なので撃沈判断が難しく情報が錯綜し幹部の判断に混乱が生じるなど、互いの状態がわからない戦闘の大変さが説明されています。

 

戦力配分が難しい

空母は戦闘機と爆撃機と攻撃機を搭載しています。その中で戦闘機は空母直掩と攻撃隊護衛に何機割り振るか、偵察機はどの方向に何機出すか割り振るのが大変のようです。
特に護衛の戦闘機は適切な数を割り振らないと空母を守りきれなかったり、攻撃隊が全滅したりするようで、その判断の難しさが伺えます。
実際夕方に行われた攻撃では、暗くなるため戦闘機が出てこないと予想し、護衛戦闘機なしで攻撃が行われたようですが、待ち構えていた敵の戦闘機によってかなりの損害を出したようです。
空母を運用する際には、敵の情報を把握した上で、戦力の分配を確実に行わねばならないので、難しいですね。

 

 

 

現場と上層部、被害経験の有無からくるとんでもない温度差

戦闘に限らず、何か行ったことに対して成果と反省をまとめ、それを共有するのは大事なのですが、珊瑚海海戦を現場で経験したかしてないかという違いは、結構な温度差になってしまっていたようです。珊瑚海海戦後、MI作戦での作戦打ち合わせで翔鶴乗組員が他の指揮官、幕僚たちに説明してる際も上層部の反応は鈍く、

のちに一航艦の飛行幹部が思わず口走ったように、
「妾の子であれだけ勝ったのだから、本チャンのおれたちならイチコロさ」
というあしらい方なのである。福地少佐が熱っぽく語れば語るほど、その声は柱島の穏やかな波に吸い込まれていくようであった。

引用:森史郎「勇者の海 空母瑞鶴の生涯」736ページ

と書かれています。

ミッドウェーでの大敗北を喫すまで、日本軍の慢心はひどかったなんて話をよく聞きますが、確かにとんでもない慢心です。この文の直後に、珊瑚海海戦の戦訓は、「情報戦の重要性」と航空戦指揮の即決性だとまとめられており、この油断はミッドウェーで空母同士の決戦は起こらないと思われてたかららしいのですが、それでも経験者の意見はきちんと聞いておくべきだったのでしょうね。終わった今更言ってもどうにもなりませんが。
自分は他人の意見を適当にあしらうなんてことはしないようにしたいですね。

 

 

というわけで瑞鶴の戦記でした。

第2次世界大戦の膨大な資料や当事者へのインタビューを通してストーリー調にまとめられた本作は、どこまで現実に即してるのかは私には判断しきれませんが、淡々と記録を追うよりかは読みやすいです。当時の人達に感情移入もしやすく、戦闘のあっけなさ、仲間が死ぬ辛さ、五航戦首脳の苦悩なんかが実感を伴って伝わってきました。

700ページを超える超大作で、まだ続巻もあるみたいですが、瑞鶴に興味のある人は読んでみることをおすすめします。

 

 

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