機械より人間らしくなれるか 書籍紹介
2016/01/02
近年、コンピュータ技術の発展によって、高度な自動化がなされるようになりました。
本書は、著者がローブナー賞の競技会に参加し、チューリングテストのサクラ役を行ったエピソードを通して、
人間と機械の違いはどこにあるのかというのを多数の視点から明らかにしています。
用語解説
ローブナー賞:最も人間に近いコンピュータに与えられる賞。
チューリングテスト:チャットをしている相手が、人間なのかコンピュータなのかを判定することで、コンピュータが知的かどうかを判断するテスト。より知的なコンピュータ相手だと、会話している人はそれを人間だと誤認する。
サクラ役:ローブナー賞の協議会で、人間として参加する役。審判はコンピュータかサクラ役とチャットで会話して、人間なのかコンピュータなのか判定する。
参考 wikipediaより
ローブナー賞:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%8A%E3%83%BC%E8%B3%9E
チューリングテスト:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88
かなり盛り沢山な内容でしたが、その中で気になった点をいくつかピックアップしてみます。
ボットの弱点は固有の経験がないこと
本書を読むまで全然知らなかったのですが、チャットを行うボットというのは様々なものが開発されているようです。しかし多くのボットはキーワードに対応する方式で、固有のキャラクターを持っていないようです。人間であれば会話対象となる人には例外なくその人が生きてきた人生と経験があります。ボットだと相手の人生や経験に斬りこむような質問に対してはどうしても一貫性を持たせることができず矛盾を生じやすいそうです。
だったら経験をデータベースとしてインプットしておけばいいのではとも思うのですが、矛盾なく経験というデータベースを連結させるとしたら、手作業だと大変でしょうし、自動でやるにしたらどのようにここの経験に意味を持たせるのか疑問になります。最近の研究がどうなっているのか、なかなか気になる問題ですね。
参考:ワイゼンバウムのELIZA, PARRY, 人工無脳
チェスのパターンは膨大
チェスなんて総当りでパターンを計算すれば勝利のための最適解が得られるだろうと割と本気で思ってました。すみません。実際は10の何十乗通りとなり、とてもじゃないが現在でも将来でも総当りでは処理しきれないということでした。その中から最適な1手を選択する人間というものはなんとも凄まじい物ですね。人間のやることが機械に取って代わる中で、このような”どう選択するかわからない”ような問題や、芸術分野などは最後まで人間の仕事になるだろうと本書でも書かれています。
実際の会話は純粋なターン制ではなく様々なタイミングで割り込みが起こる
これもなかなか面白いものでした。ネットに落ちてるSSとかだとターン制で会話が続いたりしますが、実際は途中で割り込みが入ったり、相槌など、文章に書き起こすのは大変だそうです。
ここからさらに面白いなと思ったのは、会話の中に相手が反応するような取っ掛かりを入れることで会話が弾むというもので、逆に単純な応答などで済ますと自然と会話が終息に向かうそうです。これは会話だけでなく、ツイッターのリプでの会話とかでも使えそうなので、いろいろ試してみようと思っています。
他にもナンパの方法論と機械的な行動とか、言葉の冗長性とエントロピーとか実に多様な方向からの知見が紹介されているので、一読の価値はあると思います。
人間の領域が機械に全て置き換わるという絶望にはまだ早い、そんな気分にさせてくれます。